トミー・ゲレロによる『Sunshine Radio』の各曲解説
1. By the Sea at the End of the World
この曲のギターはすごくサーフ・ミュージックっぽいんだ。俺はいろいろなタイプの本を読むのが好きなんだけど、そういう本からのワンフレーズをタイトルにすることが結構ある。この曲にはサーフ・ギターの要素が入っているから、このフレーズがしっくりきたんだ。どの本から取ったかは覚えてないんだけどね(笑)。前もって意識していたわけじゃないんだけど、演奏していくうちにマカロニ・ウェスタンっぽいサウンドになったんだ。曲名は、曲が完成してから決めることが多い。
2. Evolution Revolution
このタイトルは、今の社会のあり方、アメリカの社会情勢、この国が抱えている社会不安や人種差別問題、憎しみに対する自分の気持ちを表している。この状況から脱却するには、人間は進化しないといけないし、不正や差別と戦っていかないといけない。この曲で使っているオルガンはFarfisaなんだけど、あの独特の音色をとても気に入ってる。
3. Of Things to Come
この曲名には、未来への希望、より良い明日を願う気持ちが込められている。俺は古いソウル、ジャズ、ファンクにも影響されているし、サーフ・ギター・サウンドも大好きだから、そのの世界観やサウンドを融合させた曲なんだ。
4. Descendent of Memory
この曲のサウンドはとてもポジティブだと思うんだけど、メロディやギターの音色もアフリカ音楽からの影響が強い。人間は誰しも過去の記憶や歴史の産物だと思うんだ。それを継承していくことで、その人の人生の歴史が刻まれるんだ。そういう想いが込められた曲だよ。自分の曲の多くはマイナースケールなんだけど、この曲ではなぜかメジャースケールを使ったから、希望に満ちたサウンドに仕上がったんだ。
5. Down Thru Light
この曲は全てベースとWurlitzerのエレクトリック・ピアノ で演奏しているんだ。あとは小さいシェーカーを使った。ベースで色々な演奏法やメロディを取り入れて、ベースだけのアルバムを作ってみたいと思ってるんだけど、「Loose Grooves」にも1曲だけベースオンリーの曲が入っている。だから、俺が作る曲ではよく、ギターではなくベースがメロディを演奏していることもある。ベースでメロディを演奏すると、フィーリングやトーンが変わってくるんだ。
6. A Thousand Shapes of Change
この曲をレコーディングしてから、70年代のブラックスプロイテーション映画のカーチェイス・シーンの音楽に似ていると思ったんだ。このタイトルは、「この国がこれから必要としている全ての変化」という意味が込められている。アメリカが進化するには、変わらなければいけない側面がたくさんあるんだけど、ものすごく大きな障壁もある。でもいつか、それを乗り越えて欲しいという願いが込められているんだ。
7. Future Deserts
この曲のギターは、自分なりのハイライフやアフリカ系のギターのアプローチを取り入れてる。「これからハイライフの曲を作ろう」と考えながら曲を作ることは全くないんだけど、ベースラインやパーカッションをレコーディングしてから、こういうギターやメロディのフレーズ湧き出てくることがあるんだ。この曲では、たまたまこういうメロディが湧いてきたんだよ。
8. Up From the Dust
この曲は、ウエストコースト・ジャズ、ウエストコースト・ソウルっぽいサウンドなんだ。昔、自分の音楽を「ウエストコースト・ジャズっぽいね」と言われたことがあって、当時はそれがどういう意味なのかわからなかったけど、今なら理解できるよ。この曲のタイトルには、「なんとか今の世の中の泥沼のような状況から這い上がろう」という願いが込められている。
9. Quiet Heat
この曲はとても内省的なサウンドだけど、スピリチュアル・ジャズのアプローチに近いと思う。このタイトルは、静かに燃えてる状態を表している。その炎は、外に向けられていないけど、落ち着いたエネルギーを持っている。俺のパーソナリティを反映しているのかもしれない。曲の途中に登場するコーラスは、自分の声を3回くらい重ねて、ハーモニーを作ったんだ。超越的なサウンドにしたかったんだよ。
10. Rise of the Earth People
チャック・トリースのドラムをこの曲で使ったんだけど、アフロ・ビート的なアプローチなんだ。タイトルの”Earth People”というのは、世界の有色人種の人を象徴している。つまり、有色人種の人々が立ち上がり、この状況を改善していく、という意味が込められたタイトルさ。
11. Mysterious Frequencies
アルバムで一番お気に入りの曲だし、みんなも気に入ってくれると思う。この曲は、60年代のゴーゴーミュージックや映画のサントラに近いサウンドなんだ。
12. The Road Under My Shoes
ジョン・コルトレーンのスピリチュアル・ジャズっぽいサウンドの曲なんだけど、直線的なリズムの上に、様々なメロディーやテクスチャーが重なってるんだ。水面下でエネルギーがフツフツと湧き上がってくるようなサウンドで、コルトレーンの音楽にもそういう側面があると思う。彼の”Alabama”という曲が大好きなんだけど、とても強烈なエネルギーを感じさせる曲でありながら、決してエネルギーが爆発するわけでもなく、どこか抑制されている。スピリチュアル・ジャズのそういうアプローチが好きなんだけど、俺はジャズ・プレイヤーじゃないから、自分なりのフィルターに通して演奏しているんだ。この曲名には、誰かを理解するには”その人の立場に立ってみないといけない”という意味が込められている。相手がどういう経験をし、どういう人生を歩んできたかを分からなければ、理解することはできない。アメリカにおける理解の欠如の原因はそこにあると思う。
リリース情報
TOMMY GUERRERO Sunshine Radio
トミー・ゲレロ | サンシャイン・ラジオ
日本先行発売 A式紙ジャケット
TOO GOOD/RUSH PRODUCTION/OCTAVE-LAB OTLCD2530
税抜定価 : \2,400 + 税 2021 年 01 月20 日 (水)
ライナーノーツ:Hashim Bharoocha
Photo by Claudine Gossett
TOMMY GUERRERO