文:櫻井 央(duo MUSIC EXCHANGE)/ Photo by 深堀瑞穂
平成29年、5月17日の水曜日。初夏というよりは、残春という言葉がしっくりくるような過ごしやすい曇り空の一日に、「ピテカントロプスになる日 vol.3」は開催された。会場は前回と同じく、道玄坂の丘の上、渋谷duo MUSIC EXCHANGE。今回は、サブタイトルの「平成歌謡絵巻 ブルースの"カケラ"をひろって」にもあるように、”歌心”と”哀”をどこかに抱えた二組のアーティストを、柳原陽一郎が迎えた。
Vol.2に引き続き、今回も柳原さんと僕たちMUSIC for LIFE(duo MUSIC EXCHANGE)の共同企画という形となり、結成20周年ベストアルバムで”さよなら人類”をカバーして話題となったEGO-WRAPPIN’、東京のCITY POPの先駆者、スカート(澤部渡, 佐藤優介)、という素晴らしいアーティスト二組に出演していただけることになった。
柳原さんと、EGO-WRAPPIN’(中納良恵さん、森雅樹さん)の事前対談も行い、ファンの方以上に、僕も、濃いセッション曲の内容を楽しみにしていたが、(スカートの澤部さんの言葉をお借りすると)文字通り「すごい夜」になった。
開演すると、いつも通りパーソナリティの柳原さんがステージに登場し、今回のイベントのサブタイトルに寄り添った小粋な三曲を披露。早速、一人目のゲストのスカート(澤部渡, 佐藤優介)を招き入れる。まずは澤部さんが、柳原さんの” オリオンビールの唄”を弾き語りでカバー。ねっとりした歌声で楽曲に絶妙な哀愁をまとわせ、響かせる。ここからはキーボードの佐藤優介も参加し、スカートの楽曲を披露していく。後に、EGO-WRAPPIN’の森さんが称していた「ええ曲オタク」といった言葉が本当にぴったりの、メロディアスな7曲を演奏し、会場を温かい哀愁で包み込んだ。特に秀逸だったのは、昨年出たアルバムからの”CALL”という楽曲。全く無駄のないメロディの粒が重なり合い、心臓の近くの琴線を揺さぶられた。
スカートのソロパートが終了し、柳原さんとスカートのセッションへ。まずは柳原さんの”牛小屋”。よくぞこの曲を選んだ、といった澤部さんがなんともハマり役の曲で、会場を沸かせると、次はスカートの” 静かな夜がいい”をセッション。原曲は、バンドサウンドのクールさが際立つ、CITY なイメージのサウンドだったが、柳原さんの歌声とキーボードが入ることにより、”歌”に一層フォーカスされた切なく聴かせる一曲となった。
盛大な拍手と共に、スカートの二人を見送り、柳原さんは”妄想ヘルスメーター”と”BAD LOVE”というブルースにあふれた二曲を、ピアノの弾き語りで披露。二組目のゲストを迎える準備は万端だ。
柳原さんの呼び込みで、EGO-WRAPPIN’の二人がステージに登場。まずは一曲目、夜の円山町にいきなり連れ出されてしまったかのような “Neon Sign Stomp”。彼らが音を鳴らした瞬間、鳥肌が立ち、全身の血が踊り出す。グルーヴというぼんやりした言葉があるが、間違いなく「EGO-WRAPPIN’のパフォーマンス=グルーヴ」だった。”love scene””admire””サニーサイドメロディー”と名曲を次々と披露し、これぞライブという迫力のパフォーマンスで、会場を圧倒する。
続いて、平成歌謡絵巻、起承転結の”転”、柳原陽一郎とEGO-WRAPPIN’のセッション。一曲目は、柳原さんの” れいこおばさんの空中遊泳”。空中に飛び出し、宇宙の彼方まで飛んで行ってしまうような、良い意味でストレンジなカバーに仕上がった。次はなんと” 伊勢佐木町ブルース”。あのイントロ、あの喘ぎ声を再現。歌謡絵巻にふさわしい粋な演奏で会場を沸かせた。次の二曲は、EGO-WRAPPIN’の楽曲。”下弦の月”ではアコーディオン、”水中の光”ではピアノで柳原さんの色を滲み込ませる。個人的なハイライトは、この”水中の光”。中納さんの歌詞と澄んだ声、柳原さんの温かいピアノとコーラスが、すっと胸に入ってくる。セッション最後の曲は、柳原さんの”満月小唄”。前回のVol.2では、青葉市子さんがこの曲をセッションしたが、今回は全く別の楽曲に昇華されていて、この曲の持つポテンシャルの高さに驚いた。名曲とはこういうことなのだと思う。森さんが気持ちよさそうにギターをかき鳴らしているのが印象的だった。
平成歌謡絵巻、最終章は、もちろんこの曲”さよなら人類”。再びスカートの二人をステージに呼び、合計五人での演奏。柳原さんがあのフレーズをピアノで弾き、歌いだすと、会場からはどよめきが生まれる。スカート澤部さんが温かくもユニークな声を響かせ(お決まりの”着いたー!”ではたまの石川さんが見えた)、キーボード佐藤さんが堅実にメロディを紡ぐ。EGO-WRAPPIN’中納さんは、誰よりも楽しそうに唄い、森さんは時折ブルージーなギターでニヤリとさせる。まさに大団円。このイベントごとに、”さよなら人類”という曲がカメレオンのように変化していく様を見てきたが、今回は(もちろん良い意味で)ガチャガチャ感というか、それぞれの出演者の個性が弾けるような演奏だった。
万雷の拍手の中、アンコールで柳原さんが登場し、他の出演者が後ろのソファで見守る中、” ホントのバラッド”を演奏し、「ピテカントロプスになる日 Vol.3」は幕を閉じた。
さて、今回の余韻がまだまだ冷めやらないが、「ピテカントロプス vol.4」も企画進行中。今は、秋頃(十月?)に開催ということしか告知できないが、きっと次回も、音楽愛にあふれた素晴らしいイベントになることでしょう。どうぞお楽しみに。
SET LIST
【柳原陽一郎】
歌手はうたうだけ
やなちゃんのアラビヤ小唄
やなちゃんのワカンナイ節
【スカート(澤部渡, 佐藤優介)】
オリオンビールの唄(柳原陽一郎)
ストーリー
だれかれ
魔女
CALL
ランプトン
アンダーカレント
月の器
【スカート(澤部渡, 佐藤優介) × 柳原陽一郎】
牛小屋(柳原陽一郎)
静かな夜がいい(スカート)
【柳原陽一郎】
妄想ヘルスメーター
BAD LOVE
【EGO-WRAPPIN’】
Neon Sign Stomp
love scene
admire
サニーサイドメロディー
【EGO-WRAPPIN’ × 柳原陽一郎】
れいこおばさんの空中遊泳(柳原陽一郎)
伊勢佐木町ブルース(青江三奈)
下弦の月(EGO-WRAPPIN’)
水中の光(EGO-WRAPPIN’)
満月小唄(柳原陽一郎)
【柳原陽一郎 × EGO-WRAPPIN’ × スカート(澤部渡, 佐藤優介)】
さよなら人類
【柳原陽一郎】
ホントのバラッド
ピテカントロプスになる日 vol.3~平成歌謡絵巻 ブルースの"カケラ"をひろって~
■出演:柳原陽一郎 / EGO-WRAPPIN’ / スカート(澤部渡, 佐藤優介)
■開催日時
2017年5月17日 (水)
18:30 OPEN / 19:00 START
■開催場所
duo MUSIC EXCHANGE
東京都渋谷区道玄坂2-14-8 O-EASTビル1F
http://www.duomusicexchange.com
■チケット料金
前売り¥3,800(税込) / 当日¥4,300(税込)
※ドリンク代別途¥500-必要
■主催:Music For Life
■企画・制作:SWEETS DELI RECORDS / Music For Life