中学3年のときに『さよなら人類』を聴いて、「すごく芸術的だな……」と思ったという小谷美紗子。
かたや知人に勧められて小谷美紗子の3枚目のオリジナルアルバム『うた き』を聴き、
「すごいわ……」と感銘を受けたという柳原陽一郎。
ともすれば言葉のほうが注目されがちな2人であるが、実はある意味サウンド志向。
そんな、歌の力には定評のあるシンガーソングライター2人が、
いったいどんなセッションを繰り広げるのか──。
互いにリスペクト山盛りの「ストレートvsスローカーブ」ジョイント、乞うご期待!

 

「『さよなら人類』には衝撃を受けました。もう構成がすごいなって」(小谷)

 


●柳原陽一郎(以下、柳原):ご出身は京都の宮津市なんですよね? 僕も小学校まで京都の向日町だったんです。

●小谷美紗子(以下、小谷):えっ、そうなんですか?

●柳原:小学校4年の担任が宮津出身で。ビリーバンバンが好きな先生でね。僕にギターの弾き語りを初めて聴かせてくれたのが、その先生。

「14歳にして
“嘆きの雪を体にあびて 燃え尽きそうな”
って書けたとは……。すごいわ、やっぱり」(柳原)


●柳原陽一郎(以下、柳原):小谷さんが自分で曲を作ろうと思ったのには、何か理由があったんですか?

●小谷美紗子(以下、小谷):最初はピアノを頑張っていたんです。クラシック音楽が好きで、ピアニストになりたかったんですけど。小学3年生くらいのときに、自分が弾きたい曲が弾けなくて。どうしてもオクターブに指が届かなかったんです。

●柳原:手が小さかった。

●小谷:はい。それでちょっと挫折をしまして。その頃からちょっとずつピアノ曲を書くようになったんですね。でもやっぱり物足りないなぁ……と思うようになって。ピアノと同じくらい歌も好きだったので、弾き語りで曲を書くようになりました。

●柳原:僕の周りにも中学2年か3年で曲を書く人がいて。もう、よくわからなかった、どういう頭の構造になってるんだ!?って。14歳か15歳にして歌詞を書いて、しかも大人びた歌詞を書いて、曲をつけて。も~のすごいジェラシー(笑)。僕なんかずっとサッカーしてるか、友達とつるんでるだけの15歳でしたから。

●小谷:曲作りはいつから?

●柳原:高校1年くらいからギターをいじりはじめたかな。

●小谷:そんなに変わらないじゃないですか (笑)。

●柳原:でも作ると言っても、深夜放送の悪ノリみたいな歌ですからねぇ。「女の子はそんなに優しくないよ」みたいな歌をあえて歌うような。小谷さんは中学生の頃、どういう曲を作っていたんですか?

●小谷:デビュー曲の『嘆きの雪』を中学2年生くらいのときに書いたんですけど。

●柳原:14歳にして“嘆きの雪を体にあびて 燃え尽きそうな”っていう感じになった。書けた。

●小谷:はははははっ。

●柳原:すごいわ、やっぱり。小谷さんはどちらかというと直球じゃないですか。でも僕はだいたいスローカーブみたいなのばっかりだから(笑)。中学の頃は、ちゃらんぽらんのヘタレ。

●小谷:私は怖いもの知らずでした。

●柳原:勉強とか好きでした?

●小谷:高校に入ってから好きになりました。

●柳原:私は高校になって壊滅的になりました。

●小谷:壊滅的……、あははははは。

●柳原:んふふふふ。なぜ好きになったんです?

●小谷:それまでも作曲に必要な英語とか国語は好きだったんですけど、それ以外のものは自分には必要ないと思って、教科書も学校に置いて帰っていたくらいだったんです。もう自分がやりたいものだけやるっていうタイプだったんですけど。高校に入るちょっと前に、父から「成績が後ろから数えたほうが早いくらいでも、ちょっとの努力で一番になれるんだよ」って言われて。「なれるの?」と思って勉強するようになったら、だんだん楽しくなって。実は世界史とか古典に興味を持っていた、ということもわかってきて。それから勉強するようになりましたね。

●柳原:正しいあり方ですね。興味を持って初めてやるわけでしょ。イヤイヤでもなく、受験のためでもなく。素晴らしい。僕はイヤイヤでしたから。ある瞬間から、先生の言葉がまったく頭に入ってこなくなっちゃった。洋楽は好きだったから英語はちょっとわかったけど、数学はさっぱりだし。物理化学は全滅。地学の、星の距離を測るのだけは好きだった。

●小谷:……(笑)。

●柳原:「何光年か求めよ」っていうのは好きだったけど、それだけ。地理なんかも収穫高はいいから、鉄道のことを教えてくださいって思ってた。

●小谷:鉄道好きなんですか?

●柳原:はい。阪急電車が一番好き。子供の頃の夢は阪急電車になることで。

●小谷:電車そのものになりたかった (笑)。

●柳原:そう、そのものに。なれなかったです(笑)。音楽家以外のものになりたいと思ったこと、ありますか?

●小谷:動物保護官にはなりたいと思いました。

●柳原:ほぉ。やっぱりすごいわ、阪急電車になりたいと言ってる人とは違う(笑)。

  


 

「実は僕、ちょっとアート系ユニット上がりの、プラス、ちょこっとビジュアル系……(笑)」(柳原)


●小谷美紗子(以下、小谷):柳原さんは、いつからバンドをやっていらしたんですか?

●柳原陽一郎(以下、柳原):たまのメンバーと出会ったのが21歳か22歳のときですね。実は全員、最初はギターの弾き語りだったんです。それであるとき、ライブハウスで知り合って、お互いのライブに行くようになって。でも3人ともすごい貧乏だったから、誰かの部屋でダラダラしてるばっかりで、そのうち「バンドごっこでもしようか」ってことになり。下手でもいいから、カシオトーンとギターと太鼓っていう役割に振り分けようってことになったのが始まりです。そのときは“かき揚げ丼”っていうバンド名でした。

●小谷:えっ! あっはははは。

●柳原:やたらとかき揚げ丼ばっかり食べてたから。

●小谷:へぇ~~~~~~~、そうだったんですね。

●柳原:そのあとでベースが入ってきて、出来上がりっていう感じですね。だからバンド上がりじゃないんですよ。ま、ちょっとアート系ユニット上がりで、プラス、ちょこっとビジュアル系(笑)。

●小谷:あっはははは。でも、そもそも弾き語りを始めたのは、いつくらいなんですか?

●柳原:初めて人前でライブをやったのは、高校1年の秋くらいだったんじゃないかな。

●小谷:そのときに、もうライブをなさってたんですね。

●柳原:いや~、無理矢理ですね。ただ人前に出たくって。だるい日常がずっと続くので、とにかく歌をでっちあげてギターでワーッと。吉田拓郎さんとかを見て、気合があればなんでもできるみたいに思ってしまったんですよ。

●小谷:あははは。

●柳原:で、やってみようかな、と。ジャカジャカやれば様になるんじゃないかな、と。まぁ~お粗末なものでしたけど。小谷さんは中学生で曲を作り始めて。

●小谷:17歳くらいのときに事務所に入って、19歳でデビューすることになるんですけど。

●柳原:曲を作るときはピアノですか?

●小谷:はい。

●柳原:ちなみにそのとき、歌詞はあるんですか?

●小谷:まちまちなんですけど。一番多い書き方は、フラストレーションみたいに溜まったものが、同時にこう出てくるというか。それが一番書きやすい。

●柳原:それは怒りみたいなもの?

●小谷:怒りとか悲しみとか、疑問に思うこと。

●柳原:それが言葉とメロディーになって一緒に出てくるんだ……。はぁ……すごいね。

●小谷:そうですか?

●柳原:いやいや、何かが破綻せずに両方出てくるのは、すごいことだと思います。昔は僕もそういうことがあったような気がするんだけど。とはいっても怒りとかじゃなく、もっとバカバカしい言葉ですけど。「金がない~」みたいな。僕、バンドのときとか、ずっとメロディー人間って言われてたんですね。編曲好きとか。だけど最近は全部、歌詞からなんです。

●小谷:あ、そうなんですか。

●柳原:だから曲と歌詞が同時に出てきた時代がすごく懐かしい。そんなこと、あったなぁって。

 

「柳原さんの『真珠採りの詩』、曲調とか、すごく好きなんです」(小谷)

 

●柳原陽一郎(以下、柳原):弾き語りの同業者としての質問なんですけど。弾き語りしにくい曲ってあります?

●小谷美紗子(以下、小谷):あります、いっぱいあります。

●柳原:そういう曲も弾き語りするんですか?

●小谷:最近はトリオでやることが多いんですけど。そうすると、どちらかというと先にこういうアレンジでっていうのが固まっていて、それに隙間を作りながらピアノを置いていく感じの作り方になるんですね。

●柳原:リズムセクションの感じが先にあって。

●小谷:そうなんです。ベースとドラムがこう鳴ってくれているから、私はこういうふうに歌って弾けばいいというのがあるので。それを逆にして、ピアノをメインにするっていうのがすごく難しくて。

●柳原:曲の構造も、そうなると違ってくるから。

●小谷:そうなんです。弾き語りでやるっていうことだと、ピアノと歌だけで完成していないとダメだから。でもそうやって完成させてしまうと、今度は他の楽器が入るアレンジにするのが難しくなるので。最近はトリオで演奏することを前提に、ちょっと隙間を空ける書き方をしていたんですね。そしたら、今度はそういう曲を弾き語りにするのが難しくて。だから、やってない曲も多いですね。

●柳原:僕も最近はずっと弾き語りをしてるんで、そういうつもりで曲を書くから。まぁ弾き語り用に書けるようになったっていうだけでも、自分に拍手を送りたいんだけど(笑)。バンドのときに書いてたような隙間だらけのイージーな感じも、懐かしいんですよね。

●小谷:そうなりますよね、弾き語りをやっていると。

●柳原:弾き語りって、あるフォーマットに絶対いかないといけないっていうの、あるじゃないですか。

●小谷:はいはい。

●柳原:そうじゃなくてバンドで「はいはい、お任せ」みたいな。それで充分盛り上げてくれるようなことが、ちょっと懐かしいときもあります、正直言って。

●小谷:わかります、すごくよくわかります。

●柳原:ところで今回のセッションですけど、小谷さんが『真珠採りの詩』もお好きだと聞きまして。それ、やりましょうか。

●小谷:はい! 曲調とか、すごく好きなんです。

●柳原:じゃ、それを歌っていただいて。私の曲で恐縮ですが『さよなら人類』も、みんなで歌っていただきたくて。あとは小谷さんの歌で、もしよければ僕が何か歌わせていただこうかなって。

●小谷:ぜひぜひ~。ぜひ歌ってください。

●柳原:小谷さんの曲で好きな曲はいっぱいあるんですけど、好きだからやれるっていうわけでもないから。難しいところなんですよね、相談しなきゃいけない、自分の技量と(笑)。

●小谷:『真珠採りの詩』は私がピアノを弾いてみますね。

●柳原:じゃ私はデジピかギターで。うん、デジピが面白いかもしれないね。……んなこと言って大丈夫か、私のスキルで(笑)。いや、ご期待に添えるよう頑張らせていただきますんで。ぜひ見に来てください。

 

 

ピテカントロプスになる日 vol.2~Woman Sings “やな” Song~』

■出演:柳原陽一郎 / 青葉市子 / 小谷美紗子
■開催日時
 
2016年10月17日(月)
 18:30 OPEN / 19:00 START
■開催場所
 duo MUSIC EXCHANGE

 東京都渋谷区道玄坂2-14-8 O-EASTビル1F
 ●duo MUSIC EXCHANGE Webサイト:http://www.duomusicexchange.com
■チケット料金
 前売り¥3,500(税込) / 当日¥4,000(税込)
 ※ドリンク代別途必要
■主催:MUSIC for LIFE / 企画・制作:SWEET DELI RECORDS / MUSIC for LIFE